【2023年度最新版】男性の育休に使える両立支援助成金について徹底解説
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政府は少子化対策として、仕事と子育ての両立に力を入れています。
2022年4月からは、育休を取得しやすくするための雇用環境の整備を事業主に義務づけ、同年10月には男性の育休を促進するために「産後パパ育休(出生時育児休業)」の制度をスタートしました。
しかし中小企業の人事労務担当者からは「忙しい時期に育休で休まれると他の従業員に負担がかかってしまい、会社にとってはデメリットしかないのでは」という声もききます。
そこで今回は、なぜ男性の育休が必要なのか、会社にもたらされる効果について、そして男性育休で活用できる助成金について詳しく説明します。
ぜひ最後まで読んでいただき、子育てパパを支援し、育休が当たり前の会社を目指しましょう。
1.なぜ今、男性の育休が必要なのか
まずは下図の育休取得率の推移グラフを見てください。男性の育休取得率はここ数年上昇してはいますが、女性がコンスタントに8割以上なのに対し、男性は2割にも届いていません。
厚生労働省「育児・介護休業法の改正について」資料より
政府は令和7年(2025)年までには男性育休取得率30%という目標を掲げています。
しかも令和5年の3月に行われた内閣総理大臣記者会見では、男性の育休取得率の政府目標を2025年に50%、2030年に85%とするとしました。
つまり男性の育休促進は、ますます加速されていくことになります。
そして今は、育児にかかわりたいという男性が増えてきています。男性の家事・育児時間が長いほど、第2子以降の出生割合が高いという調査結果もあります。男性育休への取組みは、少子化対策として欠かせないものとなってきているのです。
また子育てをする従業員への支援は、会社にも次のようなメリットをもたらします。
・育休取得者自身が休みを確保するために、仕事を効率的に行うという意欲が高まり、組織全体の生産性の向上に繋がる
・育休取得者の業務を洗い出すことによって、特定の担当者しか分からない業務や効率の悪い業務などを見直すきっかけとなる
・「育休が取得しやすく、子育てと仕事の両立に取り組むという会社」というイメージアップに繋がる
行政としても、仕事と家庭生活の両立に取り組む事業主に対して助成金等で支援し、男性の育休取得を後押ししています。
助成金を活用すれば、育休取得者の代替要員の確保や、負担が増える従業員に対する待遇の向上など、従業員を全体的にケアしていくことが可能となるでしょう。
では早速、次の章から男性育休で使える両立支援助成金について詳しく解説します。
2. 男性育休時に使える両立支援助成金の概要
男性育休に使える両立支援助成金には、以下の3つのコースがあります。
1 出生時両立支援コース(子育てパパ支援助成金)
2 介護離職防止コース
3 育児休業等支援コース
男性の育休で利用できるのは、1の出世両立支援コースと3の育児休業等支援コースです。各コースとも、同一事業主について1回限りの支給で、同一労働者に対して1と3を併給することはできません。
※3の育児休業等支援コースは、雇用期間の定めのない労働者と有期雇用労働者がいる場合は、それぞれ各1人の合計2回支給。
1と3の大きな違いは、3の育児休業等支援コースは育休期間が3か月以上とった労働者が対象となるのに対し、1の出生時両立支援コースは5日以上(子の出生後8週間以内に開始)の男性労働者が対象となります。
1と3のどちらでも可能ですが、短期取得の多い男性育休には1の出生時両立支援コースを、長期取得の多い女性育休には3の育児休業等支援コースを利用している企業が一般的です。
今回は、男性の育休で1の出生時両立支援コースを利用する場合について説明をします。
本記事は、2023年4月時点の両立支援助成金の要件です。申請の際には、必ず最新の情報を厚生労働省のホームページで確認するようにしてください。
出生時両立支援コースには第1種と第2種がある
出生時両立支援コースでは、以下の2つの場合に助成金が支給されます(対象は中小企業のみ)。
・第1種:雇用環境整備などに取組み、男性労働者が子の出生後8週間以内に開始する連続5日間以上の育休を取得した場合
・第2種:第1種受給した事業主において、3事業年度以内に育休取得率が30ポイント以上上昇した場合
※2023年4月からは男性育休者が5人未満かつ育休取得率70%以上の場合の要件が新設されました。詳細は「第2種」の説明で確認してください。
支給額については次の通りです。
出生時両立支援コース「第1種」の支給要件
出生時両立支援コースの支給要件は6つです。1つずつ順に説明します。
①雇用環境整備を複数実施していること
育児・介護休業法では令和4年4月から育休を取得しやすい雇用環境の整備を事業主に義務づけました。
厚生労働省「令和4年4月1日施行育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」
育児・介護休業法では、いずれか1つ以上の実施を義務づけていますが、本コースでは法を上回る2つ以上の実施を要件としています。
またこれらの措置は、対象労働者の育休開始日の前日までに行っていることが必要です。
<注意点>
労使協定を締結して産後パパ育休の申出期限を、2週間前を超えるものとしている場合は、3つ以上の実施が必要です。事前に就業規則を確認しておきましょう。
②代替労働者の規定の整備
男性労働者が育休開始日(子の出生後8週間以内に開始)の前日までに、代替業務の整理や引継ぎについて就業規則等に規定しておくことが必要です。
③男性労働者が5日以上の育休を取得
ここでのポイントは以下の2点です。
・子の出生後8週間以内(子の出生日当日を含む57日間)に育休(産後パパ育休を含む)を開始していること
・育休期間に、所定労働日が4日以上含まれていること
※年次有給休暇として取り扱われている場合は支給対象外
④育休制度の規定整備
③の育休開始前までに、育休制度を就業規則等に規定しておくことが必要です。就業規則等には以下の内容を規定していることが必要です。
・育児介護休業法で定められている育児休業・育児のための短時間勤務の制度
・育休に係る手続きや賃金の取扱等について
(参考:厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例」)
<注意点>
「育児休業については、育児介護休業法定める通りとする」というように、育児介護休業法への委任規定は認められません。
⑤次世代法に基づく一般事業主行動計画の労働局への届出
次世代法(次世代育成支援対策推進法)とは、少子化対策の一環として仕事と子育てを両立できる環境の整備・充実させることを目的とした法律です。従業員101名以上の会社では、仕事と子育てに関する行動計画の策定・公表・従業員への周知・労働局への届出が義務づけられています。
従業員100人未満の会社でも、本助成金を利用する場合は上記に取組み、助成金申請時には一般事業主行動計策定届の添付が必要です。
⑥対象男性労働者の継続雇用
育休を取得した男性労働者は、育休開始日から支給申請日までの間に継続して雇用されていることが必要です。
<注意点>
支給申請時に、男性育休取得者が雇用保険の被保険者でなくなったり、退職したりしている場合には助成金の対象となりません。
<育児休業等に関する情報公表加算(2023年4月1日新設)>
第1種の助成金申請前の直近年度について(1)~(3)を「両立支援のひろば」で公表した場合に、2万円が加算されます。ただし加算は、1事業主あたり1回限りとなります。
(1)男性の育休取得率
(2)女性の育休取得率
(3)男女別の平均育休取得日数
※一般事業主行動計画を両立支援ひろばに公表している場合は、同じページ内で公表ができます。
<代替要員加算>
男性労働者の育休期間中に、新規雇用で代替要員を確保した場合には代替要員加算が支給されます。長期での育休を予定している男性労働者の場合には、代替要員を検討してみてはいかがでしょうか。
出生時両立支援コース「第1種」の申請手続き
第1種は、申請に係る育休終了日の翌日から起算して2か月以内での申請が必要です。育休を複数回に分割して取得した場合でも、初回の休業で要件を満たしたら、その時点から申請期間が開始します。
<注意点>複数回の分割取得の場合は、全ての休業が終了した後ではないので申請期間については事前に確認しておきましょう。
出生時両立支援コース「第2種」の支給要件
男性の育休取得率が上昇した場合に受給できる第2種の要件についても説明します。支給要件は以下の5つですが、雇用環境整備と代替労働者の規定整備については第1種の要件とほぼ同じです。④については2023年4月1日から要件が緩和されました。
①第1種の助成金を受給していること
男性育休取得率が上昇したからといって、第2種のみを申請することはできません。また第1種を申請していても不支給となった場合には対象外となります。
②雇用環境整備を複数実施していること
第1種の要件と同じ
③代替労働者の規定の整備
第1種の要件と同じ
④第1種の受給後、3事業年度以内に男性育休取得率が30ポイント以上上昇
または第1種受給年度に男性育休取得者が5人未満かつ育休取得率が70%以上の場合、次の3年以内に2年連続70%以上となること(2023年4月1日新設)
第1種の受給後、3事業年度内に育休取得率が30ポイント以上上昇していない場合でも、男性育休取得者が5人未満で育休取得率が70%以上の場合は、第2種の助成対象となりました。
ここでいう事業年度とは、国の会計年度である4月1日~翌年3月31日ではなく、会社の事業年度(個人事業主であれば1月1日~12月31日、法人であれば定款などで定めた期間)です。
また同一の子に対して育休を2回以上に分割取得した場合であっても、労働者は1人とカウントします。
⑤第1種の申請後に2名以上の男性が育休取得
第1種の申請対象労働者の他に、雇用保険の被保険者である男性労働者が2名以上、育休を取得していることが必要です。
第1種の申請対象労働者が、改めて別の子に係る育休を取得した場合は、1名としてカウントすることができます。
出生時両立支援コース「第2種」の申請手続き
第2種は、申請に係る事業年度(育休取得率が上昇した事業年度内)の翌事業年度の開始日から起算して6か月以内が申請期限です。
3.まとめ:
今後、ますます男性の育休取得は促進されていきます。
女性の育休は当たり前になりましたが、それでもまだまだ妊娠をきっかけに退職をうながしたり、労働条件を低くしたりするなどのトラブルは後を絶ちません。
ましてや男性の場合は、「男のくせに育休?」「休んで何するの?」という風土の会社もまだまだ少なくありません。
男性の育休取得率を上げるためには、まずは経営陣が意識改革を行い、トップダウンですすめていくことが必要です。部下が育児と仕事が両立できるよう配慮し、育休取得者がその経験を社内で発信するなど、育休を推奨する風土の醸成が取得率アップには効果的です。
子育てに積極的に関わりたいという男性が増えてきているなか、就職や転職時において育休が取得しやすいかという点は、会社を選ぶポイントの1つになってきています。
助成金等の制度を活用して、育休取得を希望するすべての従業員が子育てをしながら安心して働くことができる会社にしていきましょう。
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この記事の監修
社会保険労務士・
中小企業診断士
アクセル経営社会保険労務士法人代表 今井一貴
これまで、メーカーや人材サービス企業の人事として、採用、研修、給与計算、社会保険などの様々な業務に従事してきました。採用活動ではダイレクトリクルーティングを導入するなどして、ターゲットの採用に成功したり、労務業務でデジタルツールを活用して業務の効率化を図るなどの経験があります。また、制度を設計する際には、会社と従業員の双方の立場に立って仕事をしていました。これらの経験を活かして、従業員が幸せに感じるような職場の構築を支援したいと考えています。